私的生活/田辺 聖子/講談社文庫
いつもとちがう、天啓みたいな閃き。剛は今までほんとに仕事だったのかしら、女と一緒にいて、その余韻がまだ指先や躰に揺曳していて、私に向うときに、不用意に出たのとちがうのかなあ、って。これは書いたり言ったりすると長いけど、一瞬のあいだに、ぱっぱっと考えたのである。
そうだ、幸福という言葉を忘れてた。私は、剛と食欲に充たされた生活を、「贅沢」と表現するけれど、「幸福」と呼んだことはないのだった。
いつもとちがう、天啓みたいな閃き。剛は今までほんとに仕事だったのかしら、女と一緒にいて、その余韻がまだ指先や躰に揺曳していて、私に向うときに、不用意に出たのとちがうのかなあ、って。これは書いたり言ったりすると長いけど、一瞬のあいだに、ぱっぱっと考えたのである。
そうだ、幸福という言葉を忘れてた。私は、剛と食欲に充たされた生活を、「贅沢」と表現するけれど、「幸福」と呼んだことはないのだった。